安定したタイピングの姿勢を身につけよう
Preferred Networks (PFN) のプログラミング教材「Playgram(プレイグラム)」開発チームです。
この記事は、連載「タイピングを身につけよう!」の第六回です。前回は、タイピングに対する研究から判明した、タイピングが速い人の特徴である「安定した打鍵姿勢(フォーム)」についてご紹介しました。今回は、このフォームを PFN の Playgram Typing(プレイグラムタイピング)で身につける方法をご紹介します。
Playgram Typing で安定した打鍵姿勢を身につける
プレイグラムタイピングは、タイピング初学者に対してアルファベットやローマ字の習得から始めて、最終的に「安定した打鍵姿勢」を身につけて頂くことを目指したタイピング練習教材です。前回の記事で紹介したように、安定した打鍵姿勢とは:
- 同じキーは常に同じ指で押す
- 手全体を動きを最小限にする
- キーを押している最中にも次に押すキーに向けて指を動かす
といった特徴を持った打ち方のことでした。これに基づいて、本教材は以下の方針で開発されています。
- どのキーをどの指で担当するか決めて打てるようにする
- キーボード上で手を置く位置を一定に保てるようにする
- 実際に使う単語や文章で練習する
Playgram Typing では、キーを押す際の指使いが練習画面にビジュアルで表示されるようになっています。これを真似しながら問題文を打つことで、それぞれのキーをどの指で押せばよいか自然と身につきます。また、画面を見ながら打つ習慣が身につくので、後にタッチタイピング(キーボードの盤面を見ずに打つ方法)へ移行する際に役立ちます。

キーボード上で手を置く位置を一定に保つため、画面上で示される指使いは伝統的なホームポジション法に則っています。ホームポジションとは、キーボードに手を置く際に:
- 左手の人差し指を F のキー
- 右手の人差し指を J のキー
に置き、打鍵が一つ終わるたびに人差し指をこの位置へ戻す方法です。これによって、キーボード上での手の位置が大きく安定します。
この際、人差し指は最終的にホームポジションに戻ればよく、F/J の位置を常に維持する必要はありません。例えば、右手の小指で P を打つ際に人差し指が一時的に J から離れてもよいでしょう。キーボードによっては F と J のキートップ(キーキャップ)に突起や窪みがついているものがあり、指で触ると分かるようになっているので活用しましょう。
問題文推薦機能
単語や文章を練習する「とっくん」モードでは、日常生活で実際に使われる単語、文章、ことわざなどを出題します。これは、単に「キーの位置を暗記する」のではなく「ひと繋がりの文を打つ際の手の動かし方を体に覚えさせる」ことを重視しているからです。
そして、このコンセプトを強化するため、とっくんモードは「問題文推薦機能」を備えています。この機能は、学習者の過去の練習結果から苦手なキーの組み合わせを自動的に判定します。その結果に基づいて苦手な文字を含む文章を重点的に出題するので、学習者は苦手な文字を重点的に反復練習できます。

タイピングを「型」として教えるべきか
この記事で、目指すべきフォームを「タッチタイピング」や「ホームポジション」ではなく「安定した打鍵姿勢」と呼んでいるのには理由があります。これは、手の大きさや指の可動域には個人差があるので、タイピングを鉛筆の持ち方のような「型」として覚えることに弊害があると考えているためです。
典型的にはお子さんへのタイピング指導における問題があります。手の小さい子にとって、一般的なホームポジション法で小指を使うキーは押しにくく、ホームポジションを維持したまま押そうとすると無理に小指をストレッチする必要があります。
前回の記事で紹介したアールト大学の論文では、ホームポジションに準拠しているにも関わらず P を小指の代わりに薬指で押したり、左手のホームポジションの基準を F ではなく左隣の D に置いて、小指を使わない人が一定数いることが指摘されています。これは、子どもに限らず大人でも同様の問題がある可能性を示していると考えられます。
また、「指の間隔を均等に揃える」など、手の姿勢が整っていることを重視する指導法がありますが、そもそも日常的な文章のタイピングで使うキーの使用頻度には大きな偏りがあることを考えると、タイピングの上達という点では効果に疑問があります。
ホームポジション法は多くの人に適した標準指導法であり、基本的にはこれに従っておけば間違いのないものです。しかし、「同じキーは常に同じ指で押す」という観点が達成される範囲においては、各人の実情に沿ってフォームを調整する余地があると考えられます。
例えば、手が小さくホームポジションを維持するのが困難な場合、人差し指や中指を一本だけホームポジションに残しておいたり、キーボードの縁やスペースキーのあたりに親指をキープしておき、これを打鍵姿勢の「軸」とすることで手の位置を安定させる方法があります。
皆さんも、「安定した打鍵姿勢」を身につける上で自分に合ったやり方を探してみて下さい。
最後に
連載「タイピングを身につけよう!」は、ひとまず今回を一区切りとしたいと思います。コンピュータを知的創造のツールとして使いこなす上で、プログラミングやタイピングがなぜ重要であるかをお伝えすることができていたら幸いです。
プレイグラムタイピングは、昨年8月の公開以来、ベータ版として皆さまのフィードバックを頂いてきましたが、この3月から正式版として無料での提供を始めました。本連載で紹介してきたプレイグラムタイピングは、学校や学習塾などでの児童・生徒のタイピング指導に適した教材として高い評価をいただいており、おかげさまで月間5万人以上にご利用いただくサイトに急成長しています。それに伴い、学校や県・市教育委員会単位での導入のご連絡も多数いただいています。
こうした反響を踏まえて、教室やご家庭でプレイグラムタイピングをより活用していただくため、先生・保護者向けの使い方ガイドを動画で提供しています。また、教育機関でご利用の場合、お問い合わせフォームより学校名・人数等をご連絡いただいた方に、動画の内容をより詳しく解説した指導案をお送りしています。
今後もプログラミング教材「プレイグラム」とタイピング練習教材「プレイグラムタイピング」をよろしくお願いします!
ブログ記事については、次回以降「プレイグラムタイピングの作り方」と題して開発のウラ話などをご紹介していきたいと考えています。これからも Playgram Blog にご期待ください!
Playgram / Playgram Typing とは?
Playgram(プレイグラム)は、Preferred Networks (PFN) が開発するプログラミング教材です。PFN は Playgram を通じて、次世代を担う子どもたちに、実際のアプリ開発に通じる本格的なプログラミング技術にふれ、論理的かつ創造的な思考力や課題解決力を養う機会を提供します。最初は初心者に適したビジュアルプログラミングでプログラミングの基礎を学び、子どもの理解度と意欲に応じて段階的に学習を進め、最後に実際の製品開発にも使われる「Python」を使ったテキストコーディングを習得できます。
Playgram Typing(プレイグラム・タイピング)は、プログラミングに必須なタイピング能力を習得できる Playgram の補助教材です。これからタイピングを始める子どもや、アルファベットを勉強中の未就学児でも、タイピングの正しい指使い、正確性、スピードを身につけられるよう設計されています。また、学習履歴から苦手なキーを選択して特に重点的に反復練習できる機能を搭載しており、効率的に練習できます。
Playgram Typing は、ご家庭や教育機関などで無償でご利用いただけます(教育機関でご利用の場合はお問い合わせフォームよりご連絡ください)。